Sunday, February 28, 2016

最後の手紙


陸軍少尉 瀬田 万之助 命
昭和二十年三月七日 比島クラークにて戦病死
東京外国語学校
三重県四日市市北町出身 二十一歳

 この手紙、明日内地へ飛行機で連絡する同僚に託します。無事お手許に届くことを念じつつ、筆を執ります。
 目下戦線は膠着状態にありますが、何時大きな変化があるかもしれません。それだけに何か不気味なものが漂っています。
 生死の境を彷徨していると、学生の頃から無神論者であった自分が、今更の様に悔やまれます。死後、どうなるか? といった不安よりも、現在、心のよりどころのない寂しさといったものでしょうね。その点信仰厚かった御両親様の気持が判るような気がします。
 何か宗教の本をお送り願えれば幸甚です。───
 マニラ湾の夕焼けは見事なものです。こうしてぼんやりと黄昏時の海を眺めていますと、どうしてわれわれは憎しみ合い、矛を交えなくてはならないかと、そぞろ懐疑的な気持になります。───
 兄上、姉上、そして和歌子ちゃんにくれぐれもよろしく。
 早々不一
 昭和二十年三月五日
瀬田 万之助
 父 上 様
 母 上 様

 靖國神社編『英霊の言の葉(2)』所収